何様ごはん日記

ごはんに対する執着とその日常

路地裏のタコライス

5月中旬、26度の夏日。

オムライスが食べたかった、調べた店は夜しかオムライスを出していないらしい。

以前行ったことのある店へ足を運んだ。3件とも今日の日替わりはチキン南蛮だった。

暑い、辛くてさっぱりしたものが食べたい。

一番最初に足を止めた、最近できたであろう店に戻った。

その店に足を止めたにもかかわらず入らなかったのには理由がある。

まず店内が暗かったし、店員が見当たらなかったし、きわめつけは入り口に毛布が干してあったから。

1人なんですが、と入店すると

ご注文はレジでお願いします。お好きな席へどうぞ

とメニューが挟まれたバインダーを渡された。ランチメニューは5枚目に記載されていた。タコライスか日替わりカレーの2つだった。

日替わりカレーが何かわからないのでタコライスにした。カレーとタコライスのまずい店は出会ったことがないので美味しくないことはないだろう。

タコライスを待つ間、色んなことを考えた。

優しくない店だなと思った。

お冷や荷物を入れるカゴ、コーヒーのガムシロップ等がセルフサービスなのを教えてくれないし、外国人観光客の多い京都において英語表記のないメニューや外税表記は不親切だ。お手洗いの場所もわからないし、何より店の雰囲気が夜に寄りすぎている。

もし今が夜の帳が下りる頃であったらすごくムーディーな店だっただろう。淡いオレンジの間接照明が所々にあり、コンクリートの打ちっぱなしの壁には、駆け出しのアーティストの作品が飾ってある。

おそらく夜も営業しているんだろうな、ということはレジ横に並べられていたみたこともないビールの空き瓶と、ランチメニューよりも多いアルコールのラインナップで想像がついていた。

けれどこの店は、バーがランチ営業しているという割に酒の雰囲気は薄く、やけに本格的なコーヒーマシーンが我が物顔でキッチンに鎮座していた。

けれどどの層をターゲットにしたいのかの主張ははっきりしていた。レジ横に設置された壁掛けの大きなモニターには海外の自転車レースの映像が流れていたし、入り口の毛布がかけられていたのは自転車止めだと後から気づいた。

タコライスを待つ間2組の客が来た。外国人カップルと2人組の女の子だった。

2組ともセルフサービスに気づくのには時間がかかっていたし、女の子たちに限っては私のタコライスのせいで先払いシステムすら分からずしばらく座っていた。

女の子たちを惑わす原因になった私のタコライスは店の雰囲気に似合わずとてもボリュームのあるものだった。

タコミートは刻んだ牛肉と粗みじん切りの玉ねぎでとてもスパイスが効いていたし、ごはんは十六穀米で食べ応えもあった。蒸気の水滴でべしょべしょになったごはんが混じってたのはこの際目を瞑ることにする。

タコライスはとても美味しかった。初めて口にしたおそらくパクチーであろう香草も嫌ではなかったし、見た目のボリュームの割にご飯は少なめで苦労することはなかった。美味しい、美味しいが故にもったいない。

ドリンクとデザートがセットになっているのがデフォルトのようで、今日のデザートはチョコレートとナッツのケーキだった。

薄さの割にはずっしりしていて食べ応えがあった。重たいチョコレートケーキとさらっとしたアイスコーヒー。

けどやっぱり説明が少ない。チョコレートとナッツのケーキだと思っていたものは、チョコレートとナッツとバナナのケーキだった。チョコレートとナッツが好きでバナナが嫌いなうちの母だったら口にした瞬間怒っていたと思う。

コーヒーを飲み干し、店を出る前にキッチンに向かってごちそうさまでした、と声をかける。私の2つ隣に座った女の子たちの注文したであろうホットケーキが焼かれている様子が少し見えた。スキレット鍋のなかで膨らんでるそれを横目に店を出た。

もし後払いのお店ならショップカードを貰ってまた行こう、と思ったかもしれない。日替わりカレーや、ホットケーキも食べてみたいなと思わせるくらいにはタコライスもケーキも美味しかった。

ただ店員と店の雰囲気がどうもちらつく。

店の前にM字のようにおかれた2種類の立て看板は中側のメニューが見にくいし、何より掃除中かもしれないと思わせるような店内の暗さと、入り口のガラス張りを隠すように毛布が干してあったら客は入りづらい。

注文と支払いを済ませてから席についてもらうなら、レジ周りにビール瓶を並べるよりランチメニューを書いた小さい黒板でも掲げていた方が効果的だろう。

お好きな席にどうぞ、と言えるのならお冷等はセルフサービスでお願いします。とも言って欲しいし、荷物を入れるカゴは隅の方においてあるだけなら意味をなさない。

お客様に干渉いたしません、察してください。という雰囲気の割にはヒントが少なすぎるし、それはもう接客の放棄でしかない。

何も情報がないというのはクールでかっこいいのかもしれない、けれどそれが成り立つのは形の残らない言葉での誘導が必要では?

立地も悪くなく、料理も美味しい。だから故にもったいない。60点。

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